日記 2022年3月1日~7日 バゲット

1日 火曜日

片手に水の入ったコップを持って、もう片方の手でごみをごみ箱に入れようとしたら左右を一瞬間違えてごみ箱に水をやりそうだった。

明日の朝の分のごみを出す。あまり寒くない。帰ってきてから、月を見なかったと思い、確認しに行った。曇っているせいか、月齢の関係なのか、見当たらなかった。

今日は読書(研究という言い方もある)があまりはかどらなかった。少しだけでも読むには読む。
研究と関係のない本も今日はほとんど読まなかった。西村賢太苦役列車」を少しだけ読み進める。日下部さんはいい人だ。

 

2日 水曜日

あまり何もしなかった。だめ。

苦役列車」は読み終えた。いい小説だった。読んでいてつらい小説はいい小説であることが多いと思う。しかし人には勧めづらいかもしれない。度々出てくる性に関するくだり、加えて強めの女性嫌悪の表現がこの小説を人に勧めづらくさせている。
作品の中核部分と思われるところを一箇所引用くらいしておこうかと思う。

そして更には、かかえているだけで厄介極まりない、自身の並外れた劣等感より生じ来たるところの、浅ましい妬みやそねみに絶えず自我を侵蝕されながら、この先の道行きを終点まで走ってゆくことを思えば、貫多はこの世がひどく味気なくって息苦しい、一個の苦役の従事にも等しく感じられてならなかった。(文庫116頁)

世界が美しいという言葉が苦手だと思う。もちろんこの言葉を言う人がたとえば飢餓や銃撃に肯定的だとかそういうわけではないことはわかるし、もしかするとある種希望を込めた表現として言われる場合もあるかもしれないとも思う。たしかに美しい部分もあるということもわかる。わかるが、それでも総じて美しいとは言う気にならないなと思う。世界全然美しくないよと思ってしまう。私の心が狭いのかもしれない。世界が美しいと言う人は別に、大抵、世界のすべての部分が美しいだなんて思っていないだろう。

 

4日 金曜日

朝、試験を受け、夜、来週引越していく人と飲みに行った。試験の内容は事前には小論文だと聞かされていたのだが、何も論じさせられなかった。

からからに乾いた落ち葉を踏むのが好き。霜を踏むのも好きだと思う。

3合だけ飲み、眠くなり、帰って寝た。私は飲んでいるとすぐ眠くなる性質らしく、自分でもそんな気がする。

人の生活習慣が改善しつつあるという話を聞いて、よいことだと思った。自分の眠くなる時間をコントロールできることは幸福にとって重要だと思う。帰って寝たあと、私は夜中に目が覚めてしまって、それからなかなか寝付けなかった。

人の修士論文を読んで、質問をいくつか書いてメールした。5時間ほどで返信があり、回答に基本的には納得しつつ、再度疑問を書いてメールした。こういうやりとりはそれ自体楽しいなと思う。迷惑になっていないといいが。

 

5日 土曜日

2時間電車に乗った。特有の疲れがあると毎回思う。

夜、読書会でロバート・ステッカー『分析美学入門』を読む。あまり頭が働かず所々無言になってしまっていて申し訳なかったと思う。

 

6日 日曜日

出かけるため外着に着替えようと思い、いつも履いているジーパンを探したがなかなか見つからず、場所を知っているかと人に尋ねようとしたところで自分がそれを履いていることに気が付いた。

今日はあまり寒くない。近所のパン屋でバゲットを買ったら、想像した倍は長さがあって身構えた。

人生の長い間、歯磨きのからい味が苦手で何もつけずに歯磨きをしてきたが、最近、いつの間にかからい歯磨きが我慢できるようになっていた。

今日はそれなりに読書をした。

 

7日 月曜日

私はまぶたのひらいていない写真が人より多いのだが、これはたぶん、人よりまばたきの回数が多いからなのではないかと思った。任意の時刻に目をつむっている確率。

今日はそれなりに読書ができそうな気がする。